読書録K

本に出会う歓びを、誰かと共有したい書評ブログ

社会の成分は女性への不自由、男性へのいたわりー書評「BUTTER」

独身男性3人から財を搾り取り、殺害したとして逮捕されたのは、たっぷりと肉がついた身体を揺らす、美しさの尺度からかけ離れた女だった。食べたいものを食べる、太っても気にしない、男に尽くし、貢がせるー。欲望には忠実に、一方で旧来的な「女らしさ」を…

憎悪の刃は自らに返ってくるー「相模原障害者殺傷事件 優生思想とヘイトクライム」

相模原市の障害者施設が襲撃され、入所者19人の命が奪われた殺傷事件が起きたのは、2016年7月26日のことだ。本書「相模原障害者殺傷事件 優生思想とヘイトクライム」の第1刷発行は翌年1月5日で、半年ほどの極めて早いスピードで、事件の根本にある、安楽死…

ラジオの言葉は流れていくから美しい

6月8日木曜日、TOKYO FM から全国ネットで放送されたラジオ番組「SCHOOL OF LOCK!」に感動した。「未来のカギを握る」ラジオの中の全国規模学校がテーマで、平日午後10〜12時に主に中高生の悩みや主張を取り上げていく。この日に聞いたこと、感動した内容を…

アナザー星を継ぐものー「巨神計画」

アメリカの少女が森の地中から発見したのは、合金製の巨大な「手」だったー。タイトル「巨神計画」で、そして上下巻の表紙にまたがる緑色の怪しい「巨人」の姿で、そそられないわけにはいかない。ジャケ買いして正解です。とんでもない謎解きが、すさまじい…

池上・佐藤流「情報漁船」のつくりかたー「僕らが毎日やっている最強の読み方」

情報を海に例えれば、本書「僕らが毎日やっている最強の読み方 新聞・雑誌・ネット・書籍から「知識と教養」を身につける70の極意」は、その海を渡る「漁船」のつくりかたを指南してくれる。著者は元NHK記者でジャーナリストの池上彰さんと、元外務省主任分…

「演劇」ではなく「劇場」だった理由を思う―「劇場」

芸人であり作家の又吉直樹さんの二作目。「劇場」のタイトル通り、東京を舞台に、舞台演劇の演出家・永田と、学校に通いながら役者もする沙希を軸に物語が進む。読み始めて止まらないのとは反対で、何度も、何度も立ち止まって本を閉じてしまう一冊だった。…

アニメ版を知らずに観た「美女と野獣」で感動した

「美女と野獣」を映画館で観た。本家のディズニーアニメをこれまで一度も観たことがなく、実写化の再現性がどうなのか、もともとの世界観の通りなのか、ストーリーに違いがあるのかは一切分からないけれど、ただただ感動した。あまりに有名な内容なんだろう…

骨は見えないー「骨を彩る」

淡い黄色のイチョウが舞う表紙に心ひかれた。作者・彩瀬まるさんが、住野よるさんの「よるのばけもの」の書評を週刊文春に書かれていて、なんとなく優しい人だなと感じたのも、本作「骨を彩る」を手に取るきっかけになった。表紙のように儚く、そっと手を触…

未知への向き合い方―「星を継ぐもの」

地球から離れた月面で、いるはずのない5万年前の「人間」の遺体が見つかった。どこから来たのか、我々地球人と同じなのか?―。本書「星を継ぐもの」は壮大な謎に遭遇する物語であり、その未知への向き合い方を教えてくれる作品だ。

GWも仕事でへとへとな人に薦めるNetflix映画5選

今週のお題「ゴールデンウィーク2017」仕事でへとへとになっていると、ゴールデン・ウィークも何もない。人によっては連休のどこかで、溜まったタスクを片付けに行っていらっしゃるだろうか。しかもあと3日しか残ってねえや。そんな方が、つかの間、心をリ…

狂っていく最中に狂っているとは気付けない―「成功者K」

芥川賞を獲得した男性小説家Kは一夜にして「成功者」となった―。本書「成功者K」のあらすじだけを見ると、著者羽田圭介さんの私小説に思えて仕方がない。これが作品の最大のスパイスになっている。Kは成功を機に、ファンの女の子をとっかえひっかえにして…

トランプを生んだ「絶望の吹きだまり」―「ヒルビリー・エレジー アメリカの繁栄から取り残された白人たち」

トランプ氏が、どうして米大統領になれたのか。その背景に「ラストベルト」(錆び付いた地帯)と呼ばれる衰退した工業地帯がある。黒人やヒスパニック系移民が、米社会のマイノリティかと思っていたが、ラストベルトの白人労働者こそ鬱屈した閉塞感を抱えて…

ポケモン化するメディア、その見取り図―「ネットメディア覇権戦争」

情報を伝える・受け取るための「メディア」は、まるで一つの生態系をつくっている。NHKの速報テレビニュースや新聞各社のネット速報が発信されると、「ヤフーニュース」「ライブドアニュース」のトップトピックスにも表示され、新興メディア「バズフィー…

ひとり飯も悪くないと思える小説4選

Netflix野武士のグルメお題「ひとり飯」 小説の食事シーンの中には、かぐわしい匂いや料理の色合いまで鮮明に浮かぶような、思わず「食べたい」一コマがある。「何を食べるかより、誰と食べるか」とは言うものの、ひとり飯も悪くない。そう思えるような作品…

読後こそ楽しいサスペンス―「出版禁止」

日本中のラジオがいつでも聴けるアプリ「radiko(ラジコ)」で知ったDJに、浅井博章さんがいる。大阪のFM802で毎週日曜日、「モーニングストーリー」と銘打ち、おすすめの本や映画を紹介。読書家の浅井さんがストーリーテラーになる作品はどれ…

プーチンの心臓と犬笛―「ユーラシアニズム ロシア新ナショナリズムの台頭」

なぜこの人は、ムキムキマッチョ、筋骨隆々なのか。独特の威圧感を備えているのか。見る度に不思議が募るのが、ロシアのプーチン大統領だった。昨年秋、安倍晋三首相の地元・山口に来訪するニュースを機に、疑問を解消しようと書店を見て回った結果、手に取…

響き合う才能、人生―「蜜蜂と遠雷」

作者の恩田陸さんは雑誌AERAのインタビューで、作品を生み出すことは列車が駅に止まるようなものだと語っていた。つかの間とどまるが、すぐに次の駅へ向かっていく。直木賞に選出された「蜜蜂と遠雷」は、ターミナル駅のような、ひとつの節目の駅だと話して…

黒人という長い長い轍を生きよう―「世界と僕のあいだに」

生きていくということは、過去を積み上げていくことだ。20歳なら20年。たとえ生まれて1日であっても2日であっても、今日まで生きた日数の上に人生がある。その時間の中の、思い出、楽しみ、苦しみ。まるで足跡のように、過去はたしかに消えないものと…

痛みはその人のものだ―「裸足で逃げる 沖縄の夜の街の少女たち」

傷つくことと、傷つけられることは、どう違うのだろう。それは同じ傷であっても、同じ痛みではない。本書「裸足で逃げる 沖縄の夜の街の少女たち」は、誰かから暴力を受けるということが一体何を意味するのか、「暴力を受けた側」の言葉で、それも当人たちの…

音楽海賊一代記―「誰が音楽をタダにした? 巨大産業をぶっ潰した男たち」

誰が音楽をタダにした?──巨大産業をぶっ潰した男たち 作者: スティーヴン・ウィット,関美和 出版社/メーカー: 早川書房 発売日: 2016/09/21 メディア: 単行本(ソフトカバー) この商品を含むブログ (2件) を見る 泥棒、強盗、窃盗犯、盗人。盗む人の呼称は…

化け物の姿をした人か、人の姿をした化け物か―「よるのばけもの」

夜になると、僕は化け物になる。 ネタバレではない。書き出しである。『君の膵臓をたべたい』で泣かされた住野よるさんの作品を水平展開。最新作「よるのばけもの」を手に取った。週刊文春の書評で彩瀬まるさんが取り上げていたのも、興味を持ったきっかけ。

被害者が責められる犯罪―「ミズーラ 名門大学を揺るがしたレイプ事件と司法制度」

ミズーラ 名門大学を揺るがしたレイプ事件と司法制度 (亜紀書房翻訳ノンフィクション・シリーズ II-12) 作者: ジョン・クラカワー,菅野楽章 出版社/メーカー: 亜紀書房 発売日: 2016/09/28 メディア: 単行本 この商品を含むブログを見る 大切な人の命を奪わ…

アートミステリーという二重らせん―「神の値段」

神の値段 (宝島社文庫) 作者: 一色さゆり 出版社/メーカー: 宝島社 発売日: 2017/01/11 メディア: 文庫 この商品を含むブログを見る 旅先、出張先で手持ちの本を読み終わってしまうことは、本読みあるあるだと思う。ただ宿泊地や中継駅に必ずしも本屋がない…

羅針盤をインストールせよ―「AI時代の人生戦略 『STEAM』が最強の武器である」

AI時代の人生戦略 「STEAM」が最強の武器である (SB新書) 作者: 成毛眞 出版社/メーカー: SBクリエイティブ 発売日: 2017/01/05 メディア: Kindle版 この商品を含むブログ (1件) を見る STEM、あるいはSTEAM、OK Goのすごさ、クオンツ、セ…

資本主義の「次」―「限界費用ゼロ社会」

限界費用ゼロ社会―<モノのインターネット>と共有型経済の台頭 作者: ジェレミー・リフキン,柴田裕之 出版社/メーカー: NHK出版 発売日: 2015/10/27 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (6件) を見る 資本主義に未来はあるのか。取って代わる次の経済シス…

この言葉以外に、ない―「君の膵臓をたべたい」

君の膵臓をたべたい 作者: 住野よる 出版社/メーカー: 双葉社 発売日: 2015/06/17 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (34件) を見る 買った。読んだ。読む手が止まらなかった。読み終えて涙が止まらなかった。 圧倒的なインパクトがあるタイトルで、書…

そんな自分も悪くないかも―「非モテの品格 男にとって『弱さ』とは何か」

非モテの品格 男にとって「弱さ」とは何か (集英社新書) 作者: 杉田俊介 出版社/メーカー: 集英社 発売日: 2016/12/16 メディア: Kindle版 この商品を含むブログ (1件) を見る 表紙の帯に漫画が書いてあると、それだけで「ライトな内容なのかな」と疑ってし…

面倒くさがった愛の行方―「四月になれば彼女は」

四月になれば彼女は 作者: 川村元気 出版社/メーカー: 文藝春秋 発売日: 2016/11/04 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (3件) を見る NHKの朝の情報番組「あさイチ」に著者の川村元気さんが出演され、本書が取り上げられているのを見て、無性に引き…

2016年ベストバイ ノンフィクション編

2016年「買って良かった」「読んで良かった」を紹介する、ベスト・バイ。続いてノンフィクション編。 ◎「ブラッドランド ヒトラーとスターリン大虐殺の真実」 ブラッドランド 上: ヒトラーとスターリン 大虐殺の真実 (単行本) 作者: ティモシースナイダ…

2016年ベスト・バイ 小説編

今年から始めたブログ。年末にはやってみたかった、ベスト・バイ。要するに「読んで良かった本」をピックアップしていきます。まずは小説編 ◎「さよなら、シリアルキラー」 さよなら、シリアルキラー (創元推理文庫) 作者: バリー・ライガ,満園真木 出版社/…

トリックスターがいたころ―「バブル1980-1989 日本迷走の原点」

バブル:日本迷走の原点 作者: 永野健二 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 2016/11/18 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (1件) を見る 自分は「バブル」後に生まれた世代であることはなんとなく認識していても、バブルとは一体いつから始まって、なぜ終…

傷つきたくないのは自分なんでしょう?―「ナラタージュ」

ナラタージュ (角川文庫) 作者: 島本理生 出版社/メーカー: 角川書店 発売日: 2008/02 メディア: 文庫 購入: 3人 クリック: 29回 この商品を含むブログ (87件) を見る 作者の島本理生さんは痛みを描くことにかけてものすごく繊細だと思う。「アンダスタンド…

ここも戦場だという叫び―ジャーナリストはなぜ「戦場」へ行くのか

ジャーナリストはなぜ「戦場」へ行くのか (集英社新書) 作者: 危険地報道を考えるジャーナリストの会 出版社/メーカー: 集英社 発売日: 2015/12/17 メディア: 新書 この商品を含むブログを見る フリージャーナリストから現役通信社記者、新聞社特派員OBな…

暮らしはやまない―「この世界の片隅に」

konosekai.jp 「暮らしの映画」だった。 「スゴ本」さんを始め、絶対みた方が良いとの評判がそこかしこから聞こえていたので劇場へ。 (スゴ本さんの記事はこちら) なぜ『この世界の片隅に』を観てほしいのか: わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読…

愛と時間の物語―「マチネの終わりに」

マチネの終わりに 作者: 平野啓一郎 出版社/メーカー: 毎日新聞出版 発売日: 2016/04/08 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (7件) を見る 「結婚した相手は、人生最愛の人ですか?」。書店で帯を見る度に気になっていた本。又吉直樹さんが推薦している…

夢を売る男―「トランプ TRUMP REVEALD」

トランプ 作者: ワシントン・ポスト取材班,マイケル・クラニッシュ,マーク・フィッシャー,野中香方子,森嶋マリ,鈴木恵,土方奈美,池村千秋 出版社/メーカー: 文藝春秋 発売日: 2016/10/11 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (1件) を見る 不動産でもなく…

そのとき、彼は何を語ったか―「総理」

総理 作者: 山口敬之 出版社/メーカー: 幻冬舎 発売日: 2016/06/09 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (1件) を見る 16年近く国会や内閣の動きを追ってきた元TBS政治記者によるルポタージュ。テーマはずばり、「総理とは何なのか」。そして総理た…

「戦前」を線でとらえる―「それでも、日本人は『戦争』を選んだ」

それでも、日本人は「戦争」を選んだ (新潮文庫) 作者: 加藤陽子 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 2016/06/26 メディア: 文庫 この商品を含むブログ (4件) を見る なぜ日本は太平洋戦争に突き進んだのか。その道筋を日清戦争、日露戦争からたどっていく本書…