読書録K

本に出会う歓びを、誰かと共有したい書評ブログ

小説

リスナーに灯火をー読書感想「明るい夜に出かけて」(佐藤多佳子)

深夜ラジオを主軸に、真夜中を舞台に、かさぶたを撫でながら生きる若者を主人公にした、傑作の青春小説だった。佐藤多佳子さんの「明るい夜に出かけて」は、ラジオの生の言葉の感じを巧みに文体に織り込んで、ラジオが救いになる世界を立ち上げる。特にオー…

読むエスプレッソー読書感想「ザーッと降って、からりと晴れて」(秦建日子)

サラッと読めて、でもぐっと癒される本がある。そういうページ数の少ない、厚みの薄めの本が好きだ。「アンフェア」の生みの親で知られる秦建日子さんの連作短編集「ザーッと降って、からりと晴れて」(河出文庫)は、まさにそういう、エスプレッソやぐーっ…

あの頃の気持ちに会いに行こうー読書感想「ボクたちはみんな大人になれなかった」

わずか150ページあまりに、青春が凝縮されている。燃え殻さんのウェブ連載を書籍化した小説「ボクたちはみんな大人になれなかった」を読んで、浮かんできたフレーズは、ザ・ハイロウズのあの名曲の一節だった。「時間が本当にもう本当に止まればいいのにな」…

逃れられない罪ー読書感想「イノセント・デイズ」

主文、死刑。罪状、元彼氏への未練、自分を置いて幸せになる恨みから居宅へ放火し、中にいた妻と1歳の双子の命を奪った。本書「イノセント・デイズ」は、凶悪としか言いようがない事件を起こしたとされる、ある女性死刑囚の物語だ。刑事コロンボよろしく、冒…

社会の成分は女性への不自由、男性へのいたわりー書評「BUTTER」

独身男性3人から財を搾り取り、殺害したとして逮捕されたのは、たっぷりと肉がついた身体を揺らす、美しさの尺度からかけ離れた女だった。食べたいものを食べる、太っても気にしない、男に尽くし、貢がせるー。欲望には忠実に、一方で旧来的な「女らしさ」を…

アナザー星を継ぐものー「巨神計画」

アメリカの少女が森の地中から発見したのは、合金製の巨大な「手」だったー。タイトル「巨神計画」で、そして上下巻の表紙にまたがる緑色の怪しい「巨人」の姿で、そそられないわけにはいかない。ジャケ買いして正解です。とんでもない謎解きが、すさまじい…

「演劇」ではなく「劇場」だった理由を思う―「劇場」

芸人であり作家の又吉直樹さんの二作目。「劇場」のタイトル通り、東京を舞台に、舞台演劇の演出家・永田と、学校に通いながら役者もする沙希を軸に物語が進む。読み始めて止まらないのとは反対で、何度も、何度も立ち止まって本を閉じてしまう一冊だった。…

骨は見えないー「骨を彩る」

淡い黄色のイチョウが舞う表紙に心ひかれた。作者・彩瀬まるさんが、住野よるさんの「よるのばけもの」の書評を週刊文春に書かれていて、なんとなく優しい人だなと感じたのも、本作「骨を彩る」を手に取るきっかけになった。表紙のように儚く、そっと手を触…

未知への向き合い方―「星を継ぐもの」

地球から離れた月面で、いるはずのない5万年前の「人間」の遺体が見つかった。どこから来たのか、我々地球人と同じなのか?―。本書「星を継ぐもの」は壮大な謎に遭遇する物語であり、その未知への向き合い方を教えてくれる作品だ。

狂っていく最中に狂っているとは気付けない―「成功者K」

芥川賞を獲得した男性小説家Kは一夜にして「成功者」となった―。本書「成功者K」のあらすじだけを見ると、著者羽田圭介さんの私小説に思えて仕方がない。これが作品の最大のスパイスになっている。Kは成功を機に、ファンの女の子をとっかえひっかえにして…

ひとり飯も悪くないと思える小説4選

Netflix野武士のグルメお題「ひとり飯」 小説の食事シーンの中には、かぐわしい匂いや料理の色合いまで鮮明に浮かぶような、思わず「食べたい」一コマがある。「何を食べるかより、誰と食べるか」とは言うものの、ひとり飯も悪くない。そう思えるような作品…

読後こそ楽しいサスペンス―「出版禁止」

日本中のラジオがいつでも聴けるアプリ「radiko(ラジコ)」で知ったDJに、浅井博章さんがいる。大阪のFM802で毎週日曜日、「モーニングストーリー」と銘打ち、おすすめの本や映画を紹介。読書家の浅井さんがストーリーテラーになる作品はどれ…

響き合う才能、人生―「蜜蜂と遠雷」

作者の恩田陸さんは雑誌AERAのインタビューで、作品を生み出すことは列車が駅に止まるようなものだと語っていた。つかの間とどまるが、すぐに次の駅へ向かっていく。直木賞に選出された「蜜蜂と遠雷」は、ターミナル駅のような、ひとつの節目の駅だと話して…

化け物の姿をした人か、人の姿をした化け物か―「よるのばけもの」

夜になると、僕は化け物になる。 ネタバレではない。書き出しである。『君の膵臓をたべたい』で泣かされた住野よるさんの作品を水平展開。最新作「よるのばけもの」を手に取った。週刊文春の書評で彩瀬まるさんが取り上げていたのも、興味を持ったきっかけ。

アートミステリーという二重らせん―「神の値段」

神の値段 (宝島社文庫) 作者: 一色さゆり 出版社/メーカー: 宝島社 発売日: 2017/01/11 メディア: 文庫 この商品を含むブログを見る 旅先、出張先で手持ちの本を読み終わってしまうことは、本読みあるあるだと思う。ただ宿泊地や中継駅に必ずしも本屋がない…

この言葉以外に、ない―「君の膵臓をたべたい」

君の膵臓をたべたい 作者: 住野よる 出版社/メーカー: 双葉社 発売日: 2015/06/17 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (34件) を見る 買った。読んだ。読む手が止まらなかった。読み終えて涙が止まらなかった。 圧倒的なインパクトがあるタイトルで、書…

面倒くさがった愛の行方―「四月になれば彼女は」

四月になれば彼女は 作者: 川村元気 出版社/メーカー: 文藝春秋 発売日: 2016/11/04 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (3件) を見る NHKの朝の情報番組「あさイチ」に著者の川村元気さんが出演され、本書が取り上げられているのを見て、無性に引き…

2016年ベストバイ ノンフィクション編

2016年「買って良かった」「読んで良かった」を紹介する、ベスト・バイ。続いてノンフィクション編。 ◎「ブラッドランド ヒトラーとスターリン大虐殺の真実」 ブラッドランド 上: ヒトラーとスターリン 大虐殺の真実 (単行本) 作者: ティモシースナイダ…

2016年ベスト・バイ 小説編

今年から始めたブログ。年末にはやってみたかった、ベスト・バイ。要するに「読んで良かった本」をピックアップしていきます。まずは小説編 ◎「さよなら、シリアルキラー」 さよなら、シリアルキラー (創元推理文庫) 作者: バリー・ライガ,満園真木 出版社/…

傷つきたくないのは自分なんでしょう?―「ナラタージュ」

ナラタージュ (角川文庫) 作者: 島本理生 出版社/メーカー: 角川書店 発売日: 2008/02 メディア: 文庫 購入: 3人 クリック: 29回 この商品を含むブログ (87件) を見る 作者の島本理生さんは痛みを描くことにかけてものすごく繊細だと思う。「アンダスタンド…

愛と時間の物語―「マチネの終わりに」

マチネの終わりに 作者: 平野啓一郎 出版社/メーカー: 毎日新聞出版 発売日: 2016/04/08 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (7件) を見る 「結婚した相手は、人生最愛の人ですか?」。書店で帯を見る度に気になっていた本。又吉直樹さんが推薦している…