読書録K

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ポケモン化するメディア、その見取り図―「ネットメディア覇権戦争」

 情報を伝える・受け取るための「メディア」は、まるで一つの生態系をつくっている。NHKの速報テレビニュースや新聞各社のネット速報が発信されると、「ヤフーニュース」「ライブドアニュース」のトップトピックスにも表示され、新興メディア「バズフィード」が各社の情報を整理して、一覧化する。カエルにはカエルの、水草には水草生存戦略があるように、それぞれのメディアが情報の「森」で果たす役割はどんどん多様化している。本書「ネットメディア覇権戦争 偽ニュースはなぜ生まれたか」は、拡大する情報アマゾンの見取り図を示してくれた。

ネットメディア覇権戦争 偽ニュースはなぜ生まれたか (光文社新書)

ネットメディア覇権戦争 偽ニュースはなぜ生まれたか (光文社新書)

 

 

◎「ニュースは連続ドラマ」に目を付けたLINE 

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 元徳島新聞記者の著者・藤代裕之さんは、ヤフー、LINE、スマートニュース、日本経済新聞(電子版)、ニューズピックスの各ネットメディアを取り上げ、それぞれの誕生と成長の過程、課題を挙げていく。「こんな思いで始めたんだ」や「ふむふむ、こういう戦略ね」という驚きが随所にある中で、特に印象に残ったのはLINEニュースだった。

 LINEは「続報中」というコーナーを設け、連日話題になっているニュースを時系列で表示している。根底にあるのが「ニュースは連続ドラマだ」という意識だ。担当の島村武志役員は次のように語る。

 「記事は読者がある程度流れを知っている前提で書かれているが、毎日見ているとは限らない。初めて見た人が、第5話までドラマが進んでいたら分からないのと同じ。そこを解決できるよう工夫した」(P88)

 そもそも新聞やテレビを普段見ない人は、ニュースの発端である「初報」をみのがしているケースが少なくない。言われてみれば当たり前の話だが、マスメディアは依然として「続報スタイル」での発信を続けている。かゆいところに手が届くからこそ、LINEニュースは「読まれるメディア」に進化を続けているのだろう。

 

◎ヤフーはメディア?プラットフォーム?

 ネットメディアを見る上で、プラットフォームとメディアが解け合っているという認識の大切さを著者は指摘している。たとえば、ヤフーニュース。これまで朝日新聞など大手新聞社・通信社のニュースを一覧化した「掲示板」だった。しかし今はブロガーが発信する「ヤフー個人」もあり、独自の編集部が戦後企画なども発信する。では、ヤフーはメディアなのか?

 ここで、「ステルスニュース」の問題が立ち上がる。

 (ヤフーのある役員は)長野県軽井沢の別荘を貸し借りできるサービスが、観光庁から旅館業法上の問題があるとして中止になったと紹介し、日本政府の規制を批判した。(中略)記事だけ読めば、政府の規制が新たなビジネスの拡大を妨げているように見える。(中略)だが、実はここで紹介されているサービスというのは、ヤフーの別の執行役員が始めたものだった。要するに、関係性を隠して自社の利益誘導を図る「ステルスニュース」だったのだ。(P76)

 プラットフォームは「メディアの情報を整理しているだけ」だからこそ、その情報の信憑性や倫理性はメディアの責任だった。誤報や悪意ある報道があればメディアが批判され、プラットフォームは「中立的」、ユーザーの目線からすればなんとなく「公平」にも映ってきた。だがメディア化するプラットフォームは、その責任を負わなければいけない。その覚悟があるかを、著者は問い掛ける。

 

◎猫とジャーナリズム

 読み終えてきて、ネットの戦国時代的な覇権争いは、ポケモンのバージョンアップのようだな、と思う。「赤・緑」の時代は、なんだかんだミュウツーをスタメンに起用するのが当然だった。それが、ポケモンの種類が増え、属性が増え、アイテム制が始まり・・・。ルールが変わるごとに「使える」ポケモンは変わってきた。

 もうマスメディアが情報を独占する強者でいられる時代ではない。では、いまメディアが直面するバトルの法則はなにか。強烈に伝わってきた言葉が、「猫とジャーナリズム」だった。

 かわいい猫動画と、硬派な事件ルポ、どちらがネット世界でページビューを集めるか。圧倒的に猫なのが現実だ。でも、ジャーナリズムの本懐はどこにあるだろう。ニューズが猫だけになれば、誰が社会で困難に直面する人に思いをはせられるだろう。

 注意したいのは、だからといって「猫かジャーナリズムか」ではない。その対立に意味はなく、とにかく猫はみんな大好きだ。注目を集めればその質を問わないという点では、米大統領選挙で飛び交ったフェイクニュースも、「イスラム国」(IS)が発信する処刑映像も、猫だろう。それに対抗するには、猫に学んだジャーナリズムが必要になる。

 ネットのニュースや情報を適切なものにしていくためには、優秀な研究者やエンジニアとジャーナリストの協力が必要だ。さらに、ビジネス、法的な課題に対してもアプローチしていく必要がある。(P261)

 メディアのこれまで、今、これから。藤代氏の丹念な取材は、そこを繫ぐ道をとっても見やすくしてくれた。