読書熊録

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努力の二重効果ー読書感想「GRIT やり抜く力」(アンジェラ・ダックワース)

成功のために重要なのは努力か才能か、永遠の論争に「努力の二重効果」という視点で挑む好著だ。本書のタイトルである「GRIT」は副題の通り「やり抜く力」、すなわち「努力を継続する力」を指し、著者のアンジェラ・ダックワースさんは、心理学の中でもグリットを専門にする。豊富な実例をもとに、グリットの重要性に加えて、「どうやってグリットを伸ばすか」にもたくさん言及していて非常に実用的だ。訳は神崎朗子さん、ダイヤモンド社刊。

 

 

やり抜く力 GRIT(グリット)――人生のあらゆる成功を決める「究極の能力」を身につける

やり抜く力 GRIT(グリット)――人生のあらゆる成功を決める「究極の能力」を身につける

 

 

努力には二重効果がある

成功者を目の当たりにしたとき、最初に浮かぶ感想は「この人は才能がある」だと思う。本書の中でも、起業家のうち天才型と努力型のプロフィールを見せられた時に、天才型への投資が優先されるケースが多いことが触れられる。成功と才能の距離は、努力との距離より近いと思われている。

 

アンジェラさんは、才能の存在を否定しないが、才能に対して努力は「2回作用する」ことを示してくれる。この理論は本書を読むからこそ触れられる理論だ。図示するとこうなる。

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まず、才能を努力、たとえば練習や技術的な進歩によって磨くことで、それはスキルになる。速く走るスキル、心を動かす音楽を生み出すスキル。しかしスキル単体で、成功が得られるものとは限らない。そのスキルを発揮する努力を行うことで、ようやく満足のいく成果物が生まれる。

 

要するに、所与である才能に比べて、後天的な努力は影響する局面が2倍ある。だからこそ努力が大切だし、努力を続ける力、グリットが成否を分けるファクターになってくる。

 

著者は、例としてミネソタ州の陶芸家ウォーレン・マッケンジー氏を示す。彼は著名な陶芸家であるが、一日につくる壺は40から50に上る多作だ。著者が解説する。

 仕事がわかってきて、どんどん腕を上げるにつれ、マッケンジーが一日につくる出来のよい壺の数も増えていった。

 〈才能×努力=スキル〉

 それと同時に、出来のよい壺の出荷数も増えていった。

 〈スキル×努力=達成〉

 マッケンジーはひたすら努力を重ね、めきめき腕を上げ、目指す通り「自分にできる限り、最高に心が躍るもの」「人びとの家によく似合うもの」を創っていった。同時に、より偉大な名匠になっていった。(p72)

 

コンパス=努力を続けるために必要な最上位目標

 じゃあその大切なグリットはどうやって身につくの?というのが本書の中盤以降のテーマになる。この努力の方法論が読みどころ。中でも面白かったのが、努力の優先順位とモチベーションを規定する「コンパス」の存在だ。それは目標を下位、中位、上位と分けた時に、最上位にくるものだ。図示するとこうなる。

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 努力をやり抜くとは、「あらゆることを途中でやめてはいけない」という日本的な根性論とはイコールではない。それは「最上位の目標のための努力」をやめることなく、そのために中位や下位の目標はいくらでも切り替えていい、ということ。最上位の目標は北極星と同じ。迷ってもいいし、回り道をしてもいい。でも北極星に背を向けるな、というのがメッセージだ。

 

いくつもの例の中で、「ザ・ニューヨーカー」のエース漫画編集者ボブ・マンコフの話が好きだ。マンコフは「面白い仕事をして食べていきたい」という大目標に添って、漫画家になりたかったが、最初はまったく採用されない。

 

途中で、大学院で実験心理学を学んで研究者の道も模索したし、スタンダップ・コメディにも関心があったからその道も検討した。しかしその中で、漫画家になりたいという思いが消えなかった。漫画を描き続けた。そしてむしろ、最上位の目標は「世界トップレベルの漫画家になりたい」と野心的になっていった。ザ・ニューヨーカーに不採用になった回数は2千回に上る。そのあとようやく採用された。

 

彼は傍目には色んな仕事を転々としたし、ぶれているかもしれないが、「面白い仕事で食べていく」というコンパスは変わらなかった。これが努力のモチベーションである。

 

レンガ職人の3回答

 これ以外にも「ジョブクラフティング」や「対応原則」とか、有益な努力の方法論が示されていく。その詳細はぜひ読んでいただくとして、最後に、「今、自分がコンパスを持てているか。グリットを伸ばせる状態にあるか」をたった一つの質問で確認できるという話があったので、紹介したい。

 

 自分の最重要の目標をとおして世の中の役に立てる人は、本当に幸福だ。そういう目標を持っている人は、どんなにささいなことや退屈な作業にも、意義を見出すことができる。ではここで「レンガ職人」の寓話を例に考えてみよう。

 ある人がレンガ職人に「なにをしているんですか?」とたずねた。三者三様の答えが返ってきた。

 

 1番目の職人は「レンガを積んでいるんだよ」。

 2番目の職人は「教会をつくっているんだ」。

 3番目の職人は「歴史に残る大聖堂を造っているんだ」。

 

 1番目のレンガ職人にとって、レンガ積みはたんなる「仕事」にすぎない。2番目の職人にとって、レンガ積みは「キャリア」。3番目の職人にとっては、レンガ積みは「天職」を意味する。(p208ー209)

 

あなたは、どのレンガ職人だろうか。

 本書は単なるハウツーにとどまらず、努力とは何か、そして自分が好んで努力できる、グリットを発揮できる「天職」はなにかを考える貴重な読書体験を与えてくれる。

 

今回紹介した本はこちらです。

 

やり抜く力 GRIT(グリット)――人生のあらゆる成功を決める「究極の能力」を身につける

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