読書熊録

本に出会う歓びを、誰かと共有したい書評ブログ

私が私を裁かなくちゃいけないー読書感想「死にがいを求めて生きているの」(朝井リョウさん)

誰も私の価値を決めたりはしない。あるともないとも言わない。だからこそ、私は私を裁かなくちゃいけない。それで、自分を肯定できるのならいい。でもそうじゃない。だからこんなにも、苦しい。朝井リョウさんの長編小説「死にがいを求めて生きているの」は…

意味ベースでいこうー読書感想「目の見えない人は世界をどう見ているのか」(伊藤亜紗さん)

目が見えないということは欠落ではない。見える人にとっての世界と、見えない人にとっての世界は違う。そこに優劣はない。あるのは「意味」の異なり。見える/見えないをビットのあるなしのように「情報」ベースで捉える考え方から、「意味」 ベースに考え方…

辺境中の辺境に萌芽があるー読書感想「20億人の未来銀行」(合田真さん)

この人は未来を変えるかもしれない。「20億人の未来銀行 ニッポンの起業家、電気のないアフリカの村で「電子マネー経済圏」を作る」を読んでワクワクした。著者の合田真さんを知れて、その頭の中を覗けて、興奮が収まらない。 合田さんが構想するのは「金利…

分からないのは豊かなことー読書感想「考えるとはどういうことか」(梶谷真司さん)

「分からない」のは恥ずかしいことじゃない、むしろ豊かなことだ。「問い」を多く持ち、さらに問い続けることこそ、人を自由にする。哲学者・梶谷真司さんは「考えるとはどういうことか 0歳から100歳までの哲学入門」で、こう伝えてくれている。 本書の…

アフター2020をどう生きるー読書感想「東京の子」(藤井太洋さん)

小説「東京の子」はアフター2020をどう生きるか、を読者に問い掛ける。五輪は終わった。どうにも使いきれないレガシーが残った。すっかり東京は「国際都市」へ変貌した。足元の雇用は溶け出していく中で、理想なのかどうか判別できないビジョンが立ち上がっ…

短くて痛くて美しい物語ー読書感想「ビューティフル・デイ」(ジョナサン・エイムズさん)

ほんの100ページなのに濃厚な読書体験ができる。ノワール、いやバイオレンスに近い痛々しい世界なのに、綴られる言葉はほのかに詩的で、どこまでも美しい。作家でありテレビ脚本家でもあるジョナサン・エイムズさんの短編「ビューティフル・デイ」は不思議で…

幸せは成功に先行するー読書感想「ハーバード流 幸せになる技術」(悠木そのまさん)

成功するから幸せになるわけではない。むしろ、幸せは成功に先行する。いますぐに、具体的に幸せになることは可能で、そんなポジティブな状態こそ成功を呼び込むことさえある。ワークスタイルデザイナー悠木そのまさんが、ポジティブ心理学や脳科学の大家か…

読んだら戻れない進むだけー読書感想「82年生まれ、キム・ジヨン」(チョ・ナムジュさん)

男性はこの本を開いたらもう戻れない。女性というジェンダーであるだけで、人生がどれほどハードモードになるかを、確実に知ってしまう。もう知らないふりはできない。「82年生まれ、キム・ジヨン」という物語はそれぐらいに、生々しい痛みを読者に届けてく…

もっとも小さな独裁主義ー読書感想「説教したがる男たち」(レベッカ・ソルニットさん)

男性が女性に説教することはもっとも小さな独裁主義である。それは女性を無知で無力な存在だと断定し、さらには「道具」のように扱うことをよしとする。たかが説教ではないんだと、「説教したがる男たち」を読めば分かる。 これは自身が女性として、あるいは…

SF初心者のサーチライトにー読書感想「NOVA 2019年春号」(大森望さん責任編集)

SF小説を読んでみたいけれど、なんだか難しそうだと尻込みする気持ちもある。そもそも何から読めばいいか。そんな悩みを持つ人に本書はうってつけ。アンソロジー「NOVA 2019年春号」はSF初心者にとってサーチライトになる。 各作品50ページほどでさくっと読…

「本当の自分」から「自分のほんとう」へー読書感想「愛の本」(菅野仁さん)

本当の自分を探しても見つかりはしないだろう。そうじゃない、自分にとっての「ほんとう」を探そう。自分がどうすれば「生きることの味わい」を感じられるのか。そのために外へ出よう。他者と関わろう。社会学者菅野仁さんの「愛の本」はそんな転回を呼び掛…

可能主義者になるー読書感想「ファクトフルネス」(ハンス・ロスリングさん他)

世界は悪くなっているように感じられる。しかし、観測可能なデータを見る限り、世界は過去に比べて良くなっているのだ。貧困に苦しむ人、大人になる前に命を落とす子どもの数は減り、女子教育、インターネットへのアクセスは増えている。世界が良くなってい…

長い長い鎖の小さな輪ー読書感想「羊飼いの暮らし」(ジェイムズ・リーバンクスさん)

「羊飼いの暮らし」はイギリスで600年以上続く羊飼いの家系をつなぐジェイムズ・リーバンクスさんのエッセーだ。リーバンクスさんは言い切る。私の名前など残らなくていい。100年後も羊飼いの仕事が続いていれば、その土台のほんの一部が自分なんだろ…

誰かの人生の脇役になれるんだー読書感想「フィフティ・ピープル」(チョン・セランさん)

私たちは誰かの人生の脇役になれる。それは希望だ。それを教えてくれる物語が、ソウル生まれの作家チョン・セランさんの「フィフティ・ピープル」だった。 みんながみんな、自分の人生の主人公なのだと言われる。でも人生という物語は必ずしも大河ドラマのよ…

この本に出会えてよかった2018

2018年は「出会えてよかったな」と思える本がいくつもあった。「ためになった」とか「面白かった」とかというより、人生のこのタイミングで読めてよかったな、そういう意味で「出会えてよかった」と。なんだか本は人に似ている。出会うべくして出会うことが…

誰にとっても悪じゃないが、誰かにとって悪であるー読書感想「フーガはユーガ」(伊坂幸太郎さん)

伊坂幸太郎さんの最新長編(2018年12月時点)「フーガはユーガ」は「悪」についての物語なんじゃないかと思った。そんなことを考えずともただただ面白い。だけど読後、この物語に登場する悪、邪悪さがどうにも忘れられない。 キーワードは双子、誕生日、瞬間…

自衛隊に学ぶストレス管理ー読書感想「心の疲れをとる技術」(下園壮太さん)

戦場以上にブラックな職場はきっとない。しかも負けは許されない。そんな究極の仕事に臨む人たちのストレス管理は一体どうなっているのか。本書「自衛隊メンタル教官が教える 心の疲れを取る技術」はその一端を垣間見せてくれる。 著者の下園壮太さんは、元…

人はなぜ知ったかぶるのかー読書感想「知ってるつもり 無知の科学」(S・スローマンさん&P・ファーンバックさん)

人間はどうしてここまで進化したのか。複雑なビルを建設し、原子力を生み出せたのはなぜか。賢さ、知性があり、それを磨いてきたことが大きい。しかし、人間は時に大きな過ちも犯す。「知ったかぶり」をしてしまうし「知っていると思い込む」ことも少なくな…

普通のおじさんの非凡な言葉ー読書感想「パリのすてきなおじさん」(金井真紀さん)

「パリのすてきなおじさん」は文字通り、パリの街角にいるすてきなおじさんのインタビューを集めた、おじさん図鑑だ。誰も彼もすてきだけれど、特別じゃない。働いて、遊んで、失恋したり泣いたりして。普通の人生を一生懸命歩いてきたおじさんの言葉はだけ…

頼れないという貧困ー読書感想「神さまを待っている」(畑野智美さん)

貧困には種類があることをこの小説から教わった。お金がないことによる貧困。家を失うことによる貧困。食べ物にありつけない貧困。どれも深刻なのは間違いないけれど、根っこにあるのは、「誰も頼れない」という貧困なのかもしれない。畑野智美さんの長編「…

12時間後に起こるかもしれないSF小説ー読書感想「ハロー・ワールド」(藤井太洋さん)

このSF小説に描かれている出来事は12時間後に実際に起きているかもしれない。藤井太洋さんの「ハロー・ワールド」はそのぐらい、超近接未来を克明に語る。物語をつくる大道具は、ドローン配送や自動運転車、ツイッター、仮想通貨などなど。帯の惹句にある…

ネットワーク科学の専門家が紐解く人間関係論ー読書感想「私たちはどうつながっているのか」(増田直紀)

信用の時代だと言われている。ネットワーク・つながりをどうすれば豊かにできるか、誰もが知りたいと思っている。一方で、その方法論はインフルエンサーの個人的経験が多くて、どうにも再現可能性が低いようにも思えてしまう。そこで本書が役に立つ。脳理論…

ABTの三文字が伝え方を劇的に変えるー読書感想「なぜ科学はストーリーを必要としているのか」(ランディ・オルソン)

上手に伝えるために必要なことはたった1つ、ストーリーを学ぶことだ。 自分を含め多くの人が、うまく伝えられずに悩んでいる。伝えるべきことはたくさん思いつくのに、その十分の一すら伝えられていない。だけど、世の中には伝えるプロがいる。それがハリウ…

ジャージの君へー読書感想「ナナメの夕暮れ」(若林正恭)

この本は「人生」という試合の舞台になかなか乗っかれない人のためにある。思い通り試合を運べないとか、勝てないとか、そんなレベルじゃなくて。そもそもユニフォームを着られずに、ジャージ姿で舞台の脇に立ちすくんでいる人のためにある。お笑いコンビ・…

私の過去が全部違ってもそれは愛ですかー読書感想「ある男」(平野啓一郎)

愛した人の過去が全部「別人のもの」でも、その愛は愛ですか。私たちは人の「何を」愛しているんですか。小説「ある男」は、愛している瞬間は疑うことのない愛の根本について、問い掛けてくる。 作者の平野啓一郎さんは「マチネの終わりに」でも「愛と時間」…

ベルリンに学ぼうー読書感想「ベルリン・都市・未来」(武邑光裕)

日本は壁にぶちあたっている。戦後、エコノミックに驚異的な成長を遂げた後、直面した高齢化社会に未来を描ききれないでいる。一方で、日本と同様に敗戦を経験したある場所が、いまや最先端都市として興隆している。それが、ドイツの首都ベルリン。なぜベル…

会社は家族からチームになるー読書感想「NETFLIXの最強人事戦略」(パティ・マッコード)

会社は「管理」で出来ている。大量生産・大量消費社会にあっては、従業員の勤怠管理を徹底し、ヒエラルキー型の組織人事を徹底することで、効率的に経済活動を行えた。しかし、21世紀は「変化」の時代になった。管理は組織を硬直化させ、ルールの数々はむ…

分断を超えろ!建築欲を放て!ー読書感想「バベる!自力でビルを建てる男」(岡啓輔)

雨風を防ぎ、団欒を味わうために人は家を建てた。都市に溢れかえる人に平等に家を行き渡らせるためにモダニズムが興隆した。しかし、いつしか家は「消耗品」と化して、作る人と住む人、設計者と職人の間に深い「分断」が生まれている。そこで、「建てる悦び…

世界はシャボン玉ー読書感想「ありがとうもごめんなさいもいらない森の民と暮らして人類学者が考えたこと」(奥野克巳)

「ありがとう」も「ごめんなさい」も言えない人がいるとすれば、日本では「ダメな人」として扱われるだろう。でも、どちらも「いらない」社会がある。「ありがとうもごめんなさいもいらない森の民と暮らして人類学者が考えたこと」は、それを教えてくれる。 …

人生を砦にしないー読書感想「タタール人の砂漠」(ブッツァーティ)

小説「タタール人の砂漠」は、人生の「罠」を描く。それは軍人が勤める辺境の「砦」。退屈で価値がないはずの砦に縛られた時、人生もまた砦のように硬直化する。 1940年、イタリア人作家ブッツァーティさんが発表した古典作品。当時は「幻想文学」として…