読書熊録

本に出会う歓びを、誰かと共有したい書評ブログ

世界はシャボン玉ー読書感想「ありがとうもごめんなさいもいらない森の民と暮らして人類学者が考えたこと」(奥野克巳)

「ありがとう」も「ごめんなさい」も言えない人がいるとすれば、日本では「ダメな人」として扱われるだろう。でも、どちらも「いらない」社会がある。「ありがとうもごめんなさいもいらない森の民と暮らして人類学者が考えたこと」は、それを教えてくれる。 …

人生を砦にしないー読書感想「タタール人の砂漠」(ブッツァーティ)

小説「タタール人の砂漠」は、人生の「罠」を描く。それは軍人が勤める辺境の「砦」。退屈で価値がないはずの砦に縛られた時、人生もまた砦のように硬直化する。 1940年、イタリア人作家ブッツァーティさんが発表した古典作品。当時は「幻想文学」として…

みんな結局サルであるー読書感想「サルたちの狂宴」(アントニオ・ガルシア・マルティネス)

フェイスブックの社員も、普通のサラリーマンも、どちらも資本主義の檻の中で奮闘するサルである。本書「サルたちの狂宴」は教えてくれる。 フェイスブックのほかにゴールドマン・サックス、シリコンバレーのスタートアップを経験したアントニオ・ガルシア・…

人類はクジラになるー読書感想「デジタルネイチャー」(落合陽一)

「近代」は人類に人権をもたらし、産業革命で世界を発展し続けた。しかし「現代」は資本主義や民主主義に行き詰まりが見え、テクノロジーは人間性を奪う脅威として敵対視さえされている。ここから、どんな未来が描けるのか。その一つのルートが「デジタルネ…

道具による支配を脱するためにー読書感想「コンヴィヴィアリティのための道具」(イヴァン・イリイチ)

人間をいかすための道具が、人間を支配する道具になっている。1973年に出版された「コンヴィヴィアリティのための道具」の問題意識は、現在にあっても色あせていないし、むしろなお、考えるべき問題といえる。 ウィーン生まれの思想家イヴァン・イリイチ…

履歴書より追悼文ー読書感想「あなたの人生の意味」(デイヴィッド・ブルックス)

人間には2つのプロフィールがある。履歴書と、追悼文である。履歴書はあなたがいかに有能かを華やかに語る。一方で追悼文にはあなたが「どう生きてきたか」が表れる。私たちはいつも履歴書を気にするけれど、大切なのは追悼文なんじゃないか、と問うのが本…

正しさから遠く離れて息を吸うー読書感想「メゾン刻の湯」(小野美由紀)

日常が息苦しくなったら、小野美由紀さんの小説「メゾン刻の湯」を開くといい。正しさとか、美しさとか、生産性とか。「こうあるべき」だと、世の中が駆り立てる価値観から、遠く離れた場所が見つかる。そこで深く息を吸う。 東京の昔ながらの住宅地に佇む、…

共を厚くするー読書感想「広く弱くつながって生きる」(佐々木俊尚)

公(パブリック)と私(プライベート)の間には、「共」という空間がある。共を厚くして、長い人生の旅路をもっと生きやすくしていく。そんな考え方を教えてくれたのが、ジャーナリスト佐々木俊尚さんの「広く弱くつながって生きる」だった。 200ページ弱…

トランプを生んだ熱病ー読書感想「反知性主義」(森本あんり)

なぜトランプ大統領は誕生したのか。考える補助線の一つになる本が「反知性主義 アメリカが生んだ『熱病』の正体」だ。トランプ現象の源流になった「反知性主義」とは、キリスト教文化を背景にしている。徹底した「神の前の平等」という、平等主義のラディカ…

「左ききのエレン」という労働讃歌に支えられている

「左ききのエレン」という漫画は働く人へのエールだと思う。うまくいかなくても、辛くても、格好悪くても、なんとか今日を働ききった誰かに向けた、労働讃歌だ。そして、それでも夢や理想を捨てられない労働者へ。何度も読み返して、何度も支えられている。…

ハピネスを可視化するー読書感想「データの見えざる手」(矢野和男)

ハピネスは可視化できる。「感じるもの=定性」から「測れるもの=定量」に置き換えられる。野心的なメッセージをファクトをもって伝えるのが、矢野和男さんの「データの見えざる手 ウエアラブルセンサが明かす人間・組織・社会の法則」だ。 矢野さんは日立…

終わりの匂いがする恋愛小説ー「じっと手を見る」(窪美澄)

窪美澄さんの「じっと手を見る」は恋愛小説だけれど、キラキラした希望より終わりの匂いがする。人間が誰も避けられない死の予感がする。むしろそれを正面から取り上げている。 富士山が見える田舎町で、介護士として働く男女と、二人に関わる別の男女計4人…

散歩は楽しまなきゃー読書感想「さよなら未来」(若林恵)

行き先もルートもそこで出会う何かも、全てを予想できる散歩を散歩とは言わない。散歩は楽しまなきゃ。「さよなら未来 エディターズ・クロニクル2010-2017」で語られていることは、そういうことだと思う。 「WIRED」日本版前編集長だった若林恵さんが、WIRED…

見えないから見えるものー読書感想「伴走者」(浅生鴨)

目が見えないということは、何も見えないということではない。むしろたくさんのものが見えることを、浅生鴨さんの小説「伴走者」は教えてくれる。伴走者とは、視覚障害のある選手のスポーツで、選手の「目」となる存在。「夏・マラソン編」と「冬・スキー編…

本と本屋を愛する人へー読書感想「これからの本屋読本」(内沼晋太郎)

「これからの本屋読本」は、本と本屋を愛する人へ向けられた本だ。本に関する様々な企画を主宰する「NUMABOOKS」代表で、ビールが飲める書店「本屋B&B」を運営している内沼晋太郎さんの著作。 出版不況、活字離れと言われ久しい。それでも、なぜ我々は本を…

ベゾス帝国を読み解くー読書感想「アマゾンが描く2022年の世界」(田中道昭)

拡大を続けるAmazon(アマゾン)がこれからどんなビジネスを展開するのか。その根幹にある戦略と、リーダーのジェフ・ベゾス氏の思想を読み解くのが、本書「アマゾンが描く2022年の世界 すべての業界を震撼させる『ベゾスの大戦略』」だ。 極上の顧客体験「…

明日ここに留まれないとしてもー読書感想「マレ・サカチのたったひとつの贈物」(王城夕紀)

意思に反して、突然、世界のどこかへテレポーテーションしてしまう奇病「量子病」になった女性の物語。王城夕紀さんの「マレ・サカチのたったひとつの贈物」は、SFの世界観の中で、明日にもその場に留まれず、何も「残せない」「積み上げられない」生に意味…

何度でもその日に備えるー読書感想「働く大人のための「学び」の教科書」(中原淳)

大人になったら誰も、「勉強の仕方」を教えてはくれない。だから私たちは、本書「働く大人のための『学び』の教科書」を開くのだ。 人材開発、リーダーシップ開発をアカデミックの目線で研究してきた中原淳さん(出版時:東京大学・大学総合教育研究センター…

起業家けんすうさんが質問箱でオススメされた本24冊+αを意地でまとめてみた

起業家のけんすうさん(Twitter: @kensuu)の3万超のツイートをひたすら遡り、匿名Q&Aサービス「質問箱(peing.net)」、同種サービス「Sarahah」でオススメされた本をまとめたのがこのエントリーです。ついでに、普段のツイートで紹介された本もプラスアル…

命を奪うことを肯定する女ー「そしてミランダを殺す」(ピーター・スワンソン)

殺人計画の物語の顔をして、殺人計画「から」始まる物語だった。米国人作家ピーター・スワンソンさんのミステリー「そしてミランダを殺す」は転がるほどに予想外の軌道を描く。空港で出会った美しい女に、妻ミランダの不貞を打ち明ける。「ぼくは妻を殺すつ…

我々はまだ明日であるー読書感想「昨日までの世界」(ジャレド・ダイアモンド)

伝統社会は、実はほんの「昨日」でしかない。人類生態学者ジャレド・ダイアモンドさんの「昨日までの世界 文明の源流と人類の未来」は、人類の過去と現在をつなぐ回路を読者に開いてくれる。21世紀の我々が、狩猟社会や農耕社会に学ぶことはあるだろうか?…

ゴッホが本当に描きたかったものー読書感想「たゆたえども沈まず」(原田マハ)

ああ、この物語の世界が終わってしまう。先を読みたい気持ちと、終わりに近づく悔しさと、「たゆたえども沈まず」を読んでいる間に気持ちが行ったり来たりする。「楽園のカンヴァス」などアートを題材にした小説を多く書かれている原田マハさんが本作で取り…

医師の視点ー読書感想「崩れる脳を抱きしめて」(知念実希人)

知念実希人さんは作家であると同時に内科医であり、「崩れる脳を抱きしめて」は医師の視点がピリッと効いたミステリーだと感じた。神奈川県葉山町の海辺にある、高所得者向けの療養病院。抱えた過去から出世にこだわる研修医と、若くして脳に「時限爆弾」を…

システム1は止められないー読書感想「ファスト&スロー」(ダニエル・カーネマン)

人間には2つのシステムがある。それがノーベル賞を受賞した経済学者、ダニエル・カーネマンさんが「ファスト&スロー」で伝えてくれる、一番シンプルで、一番ドラスティックな教訓だ。「システム1」は働き者で、ファストな判断をしてくれるものの、様々な…

ままならない人生だけどー読書感想「キラキラ共和国」(小川糸)

「そりゃ、生きていくってことは、大変よ。ままならないことばっかりなんだもの」。小川糸さんの「キラキラ共和国」は、あっけらかんとしたメッセージに溢れている。鎌倉にある「ツバキ文具店」は、手紙を代わりに書いてくれる「代書屋」でもある。シリーズ…

学ぶと楽しく生きられるー読書感想「『行動経済学』人生相談室」(ダン・アリエリー)

勉強が苦手だというひとには、この「『行動経済学』人生相談室」をおすすめしてみてほしい。深夜ラジオのように、学者さんのダン・アリエリーさんが様々なお悩みに答えてくれる。彼の専門、行動経済学は、恋から資産運用、引っ越しもお昼のビュッフェも、ち…

停滞から循環にー読書感想「AIとBIはいかに人間を変えるのか」(波頭亮)

人工知能(AI)とベーシックインカム(BI)が組み合わさったとき、停滞した社会は再び循環を始める。戦略コンサルタント波頭亮さんの「AIとBIはいかに人間を変えるのか」は、そんな可能性を示す。AIは知的パワーを代替し、人間はギリシア時代のように「真・善…

トランプ氏はピッコロかもしれないー読書感想「炎と怒り」(マイケル・ウォルフ)

もっとも衝撃的だったのは、まだ彼が「第1章」かもしれないということだ。本人から出版差し止めも示唆され、ベストセラーとなった「炎と怒り トランプ政権の内幕」。トランプ氏とはどんな人物か、だけではなく、一体誰が彼を支え、あるいは利用しようとして…

殺し屋が愛を知ったらー読書感想「AX アックス」(伊坂幸太郎)

殺し屋が愛を知ったらどうなるのか。それでも殺し続けるのか。愛に生きる、生き直せることはできるのだろうか。小説「AX(アックス)」は伊坂幸太郎さんらしい軽妙な物語の運びながら、深淵には重厚なテーマが流れる。最強無敵の殺し屋「兜」は、なぜか恐妻…

「みんな」の呪縛ー読書感想「かがみの孤城」(辻村深月)

思春期の心のひだをここまで言葉にできるなんて、辻村深月さんはすごい。長編「かがみの孤城」を読んで、思わず舌を巻く。それぞれの理由で学校に通えない7人の中学生。ある日、閉じこもった部屋に置かれた鏡の「向こう」に招かれると、そこには美しく静か…