読書熊録

本に出会う歓びを、誰かと共有したい書評ブログ

ノンフィクション

尊厳ある仕事が消えるー読書感想「アマゾンの倉庫で絶望し、ウーバーの車で発狂した」(ジェームズ・ブラッドワーズさん)

「アマゾンの倉庫で絶望し、ウーバーの車で発狂した」は、イギリスの記者ジェームズ・ブラッドワースさんが国内の最低賃金の労働現場に潜入し、その内幕を告発した一冊になる。明らかにされるのは、中間的な所得を保証し、人間的な営みのある「尊厳ある仕事…

具体的で小さな戦術ー読書感想「『空気』を読んでも従わない」(鴻上尚史さん)

アエラドットの人生相談コーナーの回答を見ていつも唸らされていたのが、作家で演出家の鴻上尚史さんだった。その鴻上さんが「どうして周りの目が気になるの」「人間関係が息苦しいの」という思春期の子どもたちの不安に答える形でまとめた本が「『空気』を…

辞める時も辞めない時も大事なことー読書感想「決断」(成毛眞さん)

「決断」は会社を辞めるにしても辞めないにしても大事なことを教えてくれる。それは「判断軸」。「キャリアの時間軸を自らハンドリングすること」「仕事以外の『場』を持つこと」「ダメなスキルを溜めないこと」といったキーワードを学び、判断軸を養える本…

地位財をめぐる軍拡競争ー読書感想「幸せとお金の経済学」(ロバート・H・フランクさん)

「幸せとお金の経済学」は、幸せになるための消費の秘訣を教えてくれる。ワンセンテンスで言うと「地位財より非地位財へお金を使おう」。地位財とは「他人との比較で価値が生まれるもの」。非地位財は「他人が持っているかに関係なく、それ自体に価値があり…

ジョブズのリンゴは平均時代を終わらせるー読書感想「純粋機械化経済」(井上智洋さん)

経済学者・井上智洋さんの「純粋機械化経済 頭脳資本主義と日本の没落」は、「サピエンス全史」並みの話題書になるはずだ。そのぐらいのインパクトがある。本書は、AIによる時代変化を、テクノロジー論、経済論、未来予測だけでなく「人類史」のスコープで超…

分断されないために読む本ー読書感想「アイデンティティが人を殺す」(アミン・マアルーフさん)

ヘイトが溢れている今だからこそ、本書「アイデンティティが人を殺す」を読む意味がある。分断されないために、憎しみ合わないために、この本のアイデンティティ論を学びたい。 著者はレバノンで生まれ、内戦を機にフランスへ移住した作家アミン・マアルーフ…

強いとはあなたがあなたでいることー読書感想「メンタルが強い人がやめた13の習慣」(エイミー・モーリンさん)

メンタルが強いとはどういうことだろうか?サイコセラピストでライターのエイミー・モーリンさんは「どんな運命が降りかかろうとも、自分の価値観に従って生きること」と定義する。そして、その強さのためには何かを「する」よりも「やめる」ことが重要だと…

セラピーだけでなくケアもー「居るのはつらいよ」(東畑開人さん)

何かをしてばかりいる。どこかを目指して、何かを目指してばかりいる。自分の生活には「する」がギュウギュウになって、ただ「居る」ことなんてほとんどないな。「居るのはつらいよ ケアとセラピーの覚書」は「居る」を取り出して、よくよく見つめて、その奥…

乗り物である私たちー読書感想「利己的な遺伝子」(リチャード・ドーキンスさん)

生物とは利己的な遺伝子が生き延びるために使う乗り物である。生物学者リチャード・ドーキンスさんの「利己的な遺伝子」の言説はこのワンセンテンスに集約される。この刺激的なメッセージを、400ページ余り使って大きく展開する。1976年の初版なのに、今読ん…

なぜそこでは自殺が少ないのかー読書感想「その島のひとたちは、ひとの話をきかない」(森川すいめいさん)

自殺件数が相対的に少ない「自殺希少地域」というものがある。そこではなぜ自殺が少ないのだろうか? 精神科医森川すいめいさんが、実際に現地を旅して感じた学びをアカデミックな知識と結びつけながら綴ってくれた本が「その島のひとたちは、ひとの話をきか…

残業は解剖できるー「残業学」(中原淳さん+パーソル総合研究所)

「残業学 明日からどう働くか、どう働いてもらうのか?」は、残業のメカニズムを明らかにする本だ。残業は個人の能力の問題でもないし、止むを得ず発生する現象でもない。残業は解剖できる。原因を構造化できる。その上で、効果的に対策を打っていくことは可…

移民の否認は人間の否認ー読書感想「ふたつの日本」(望月優大さん)

日本政府は、日本に移民がいることを否定する。データを丁寧に紐解けば日本が移民国家であるのは明らかなのに、頑なに否認する。望月優大さんの「ふたつの日本 『移民国家』の建前と現実」は、そんな態度に真っ向から相対する。移民を否認することは、人間を…

新しい本能をつくるー読書感想「生き残る判断 生き残れない行動」(アマンダ・リプリーさん)

人間は「新しい本能」をつくることができる。本書「生き残る判断 生き残れない行動 災害・テロ・事故、極限状況下で心と体に何が起こるのか」が示してくれる希望はそこにある。人間の認知・身体的な本能は、現代の災害下では時に不利になる。だけど、知性的…

幸福とは「何を見るか」ー読書感想「幸せな選択、不幸な選択」(ポール・ドーランさん)

ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの教授ポール・ドーランさん(行動科学)の知見を総動員し、「人はどうしたら幸せになれるのか」を探求した本が「幸せな選択、不幸な選択 行動科学で最高の人生をデザインする」だ。その要諦は「何を見るか」。ドーラ…

意味ベースでいこうー読書感想「目の見えない人は世界をどう見ているのか」(伊藤亜紗さん)

目が見えないということは欠落ではない。見える人にとっての世界と、見えない人にとっての世界は違う。そこに優劣はない。あるのは「意味」の異なり。見える/見えないをビットのあるなしのように「情報」ベースで捉える考え方から、「意味」 ベースに考え方…

辺境中の辺境に萌芽があるー読書感想「20億人の未来銀行」(合田真さん)

この人は未来を変えるかもしれない。「20億人の未来銀行 ニッポンの起業家、電気のないアフリカの村で「電子マネー経済圏」を作る」を読んでワクワクした。著者の合田真さんを知れて、その頭の中を覗けて、興奮が収まらない。 合田さんが構想するのは「金利…

分からないのは豊かなことー読書感想「考えるとはどういうことか」(梶谷真司さん)

「分からない」のは恥ずかしいことじゃない、むしろ豊かなことだ。「問い」を多く持ち、さらに問い続けることこそ、人を自由にする。哲学者・梶谷真司さんは「考えるとはどういうことか 0歳から100歳までの哲学入門」で、こう伝えてくれている。 本書の…

幸せは成功に先行するー読書感想「ハーバード流 幸せになる技術」(悠木そのまさん)

成功するから幸せになるわけではない。むしろ、幸せは成功に先行する。いますぐに、具体的に幸せになることは可能で、そんなポジティブな状態こそ成功を呼び込むことさえある。ワークスタイルデザイナー悠木そのまさんが、ポジティブ心理学や脳科学の大家か…

もっとも小さな独裁主義ー読書感想「説教したがる男たち」(レベッカ・ソルニットさん)

男性が女性に説教することはもっとも小さな独裁主義である。それは女性を無知で無力な存在だと断定し、さらには「道具」のように扱うことをよしとする。たかが説教ではないんだと、「説教したがる男たち」を読めば分かる。 これは自身が女性として、あるいは…

「本当の自分」から「自分のほんとう」へー読書感想「愛の本」(菅野仁さん)

本当の自分を探しても見つかりはしないだろう。そうじゃない、自分にとっての「ほんとう」を探そう。自分がどうすれば「生きることの味わい」を感じられるのか。そのために外へ出よう。他者と関わろう。社会学者菅野仁さんの「愛の本」はそんな転回を呼び掛…

可能主義者になるー読書感想「ファクトフルネス」(ハンス・ロスリングさん他)

世界は悪くなっているように感じられる。しかし、観測可能なデータを見る限り、世界は過去に比べて良くなっているのだ。貧困に苦しむ人、大人になる前に命を落とす子どもの数は減り、女子教育、インターネットへのアクセスは増えている。世界が良くなってい…

長い長い鎖の小さな輪ー読書感想「羊飼いの暮らし」(ジェイムズ・リーバンクスさん)

「羊飼いの暮らし」はイギリスで600年以上続く羊飼いの家系をつなぐジェイムズ・リーバンクスさんのエッセーだ。リーバンクスさんは言い切る。私の名前など残らなくていい。100年後も羊飼いの仕事が続いていれば、その土台のほんの一部が自分なんだろ…

自衛隊に学ぶストレス管理ー読書感想「心の疲れをとる技術」(下園壮太さん)

戦場以上にブラックな職場はきっとない。しかも負けは許されない。そんな究極の仕事に臨む人たちのストレス管理は一体どうなっているのか。本書「自衛隊メンタル教官が教える 心の疲れを取る技術」はその一端を垣間見せてくれる。 著者の下園壮太さんは、元…

人はなぜ知ったかぶるのかー読書感想「知ってるつもり 無知の科学」(S・スローマンさん&P・ファーンバックさん)

人間はどうしてここまで進化したのか。複雑なビルを建設し、原子力を生み出せたのはなぜか。賢さ、知性があり、それを磨いてきたことが大きい。しかし、人間は時に大きな過ちも犯す。「知ったかぶり」をしてしまうし「知っていると思い込む」ことも少なくな…

普通のおじさんの非凡な言葉ー読書感想「パリのすてきなおじさん」(金井真紀さん)

「パリのすてきなおじさん」は文字通り、パリの街角にいるすてきなおじさんのインタビューを集めた、おじさん図鑑だ。誰も彼もすてきだけれど、特別じゃない。働いて、遊んで、失恋したり泣いたりして。普通の人生を一生懸命歩いてきたおじさんの言葉はだけ…

ネットワーク科学の専門家が紐解く人間関係論ー読書感想「私たちはどうつながっているのか」(増田直紀)

信用の時代だと言われている。ネットワーク・つながりをどうすれば豊かにできるか、誰もが知りたいと思っている。一方で、その方法論はインフルエンサーの個人的経験が多くて、どうにも再現可能性が低いようにも思えてしまう。そこで本書が役に立つ。脳理論…

ABTの三文字が伝え方を劇的に変えるー読書感想「なぜ科学はストーリーを必要としているのか」(ランディ・オルソン)

上手に伝えるために必要なことはたった1つ、ストーリーを学ぶことだ。 自分を含め多くの人が、うまく伝えられずに悩んでいる。伝えるべきことはたくさん思いつくのに、その十分の一すら伝えられていない。だけど、世の中には伝えるプロがいる。それがハリウ…

ジャージの君へー読書感想「ナナメの夕暮れ」(若林正恭)

この本は「人生」という試合の舞台になかなか乗っかれない人のためにある。思い通り試合を運べないとか、勝てないとか、そんなレベルじゃなくて。そもそもユニフォームを着られずに、ジャージ姿で舞台の脇に立ちすくんでいる人のためにある。お笑いコンビ・…

ベルリンに学ぼうー読書感想「ベルリン・都市・未来」(武邑光裕)

日本は壁にぶちあたっている。戦後、エコノミックに驚異的な成長を遂げた後、直面した高齢化社会に未来を描ききれないでいる。一方で、日本と同様に敗戦を経験したある場所が、いまや最先端都市として興隆している。それが、ドイツの首都ベルリン。なぜベル…

会社は家族からチームになるー読書感想「NETFLIXの最強人事戦略」(パティ・マッコード)

会社は「管理」で出来ている。大量生産・大量消費社会にあっては、従業員の勤怠管理を徹底し、ヒエラルキー型の組織人事を徹底することで、効率的に経済活動を行えた。しかし、21世紀は「変化」の時代になった。管理は組織を硬直化させ、ルールの数々はむ…