読書熊録

本に出会う歓びを、誰かと共有したい書評ブログ

小説-青春・恋愛

見えないから見えるものー読書感想「伴走者」(浅生鴨)

目が見えないということは、何も見えないということではない。むしろたくさんのものが見えることを、浅生鴨さんの小説「伴走者」は教えてくれる。伴走者とは、視覚障害のある選手のスポーツで、選手の「目」となる存在。「夏・マラソン編」と「冬・スキー編…

ゴッホが本当に描きたかったものー読書感想「たゆたえども沈まず」(原田マハ)

ああ、この物語の世界が終わってしまう。先を読みたい気持ちと、終わりに近づく悔しさと、「たゆたえども沈まず」を読んでいる間に気持ちが行ったり来たりする。「楽園のカンヴァス」などアートを題材にした小説を多く書かれている原田マハさんが本作で取り…

ままならない人生だけどー読書感想「キラキラ共和国」(小川糸)

「そりゃ、生きていくってことは、大変よ。ままならないことばっかりなんだもの」。小川糸さんの「キラキラ共和国」は、あっけらかんとしたメッセージに溢れている。鎌倉にある「ツバキ文具店」は、手紙を代わりに書いてくれる「代書屋」でもある。シリーズ…

「みんな」の呪縛ー読書感想「かがみの孤城」(辻村深月)

思春期の心のひだをここまで言葉にできるなんて、辻村深月さんはすごい。長編「かがみの孤城」を読んで、思わず舌を巻く。それぞれの理由で学校に通えない7人の中学生。ある日、閉じこもった部屋に置かれた鏡の「向こう」に招かれると、そこには美しく静か…

奇跡があると信じてみることー読書感想「百貨の魔法」(村山早紀)

魔法ってあるんじゃない。奇跡があってもおかしくないかも。そう信じられることが希望であり、奇跡だ。魔法だ。村山早紀さんの小説「百貨の魔法」を開いて、閉じて。感じたものは、そんなふうな穏やかな光だ。 戦後復興の象徴として慕われた地域の百貨店。従…

信じなくてもー読書感想「星の子」(今村夏子)

宗教とは何か。宗教を信じるとは、あるいは、「宗教を信じる人」を信じるとは。今村夏子さんの小説「星の子」は、傍目には「あやしい宗教」にしか見えないものへのめり込む両親と、その子どもの日常をふわっと切り取る。物語だからこそ、断罪するでもなく、…

二人の「兄」ー読書感想「オブリヴィオン」(遠田潤子)

二人の「兄」の間で揺れる物語である。遠田潤子さんの小説「オブリヴィオン」は、この揺れ方に人生のあらゆる悲哀や困難、喜びや絶望を詰め込んだ。妻を殺害した罪で服役し、出所した森二。刑務所の外で待っていたのは、アングラ世界で生きる実兄の光一と、…

野球は野球以外の全てー読書感想「夏の祈りは」(須賀しのぶ)

テスト勉強、性格、進路…。高校野球とは、野球以外の全てを左右してしまう。須賀しのぶさんの「夏の祈りは」を読んで感じるのは、スポーツのそんな魔力だ。一つの県立高校の甲子園を目指した戦いのクロニクルを、数十年にわたって綴る。須賀さんは野球をテー…

後悔とはちがうものー読書感想「水曜の朝、午前三時」(蓮見圭一)

もしもあの時、あの人の手を離さなかったならー。蓮見圭一さんの小説「水曜の朝、午前三時」は、そんな「有り得たかもしれない人生」がテーマだ。義理の母親が死の病の淵で残した、長大な音声テープ。そこには1970年、大阪万博の裏で散っていった一つの…

宝物になる日ー読書感想「通りすがりのあなた」(はあちゅう)

友達ではないけど恋人ではない。他人じゃないけど親密でもない。はあちゅうさんの初小説集「通りすがりのあなた」は、そんな「名前のない関係」の豊かさを、ふわっと心に注いでくれる。でも「固定的な関係」を否定する本じゃない。自分にすら関係性をうまく…

居場所はきっとあるー読書感想「ふたご」(藤崎彩織)

10代の頃、誰しも悩んだと思う。なぜ生きているのか。自分は必要な人間なのか。大切な人を、大切にできるだろうか。そんな問いに繊細な筆致で向きあう作品が、藤崎彩織さんの初小説「ふたご」だ。藤崎さんは、バンド「SEKAI NO OWARI」のピアニストであり…

人生は私のものー読書感想「最低。」(紗倉まな)

「エロ屋」を看板にする女優紗倉まなさんのデビュー小説「最低。」は、胸をえぐるヒューマンストーリーだった。AVが何らかの形で人生に関わる「彩乃」「桃子」「美穂」「あやこ」4人を軸にした、連作短編集。好奇の眼差しや、偏見、後ろ指があふれるAV制作…

「逃げ恥」以外ー読書感想「『ファミリーラブストーリー』」(樋口卓治)

人気漫画&ドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」に感動したものの、「こんなにうまくいくものなの?」と疑問が浮かんだ方に、樋口卓治さんの小説「『ファミリーラブストーリー』」を薦めたい。逃げ恥は、「契約結婚」から始まり、真実の愛を見つけた。本書は真…

リスナーに灯火をー読書感想「明るい夜に出かけて」(佐藤多佳子)

深夜ラジオを主軸に、真夜中を舞台に、かさぶたを撫でながら生きる若者を主人公にした、傑作の青春小説だった。佐藤多佳子さんの「明るい夜に出かけて」は、ラジオの生の言葉の感じを巧みに文体に織り込んで、ラジオが救いになる世界を立ち上げる。特にオー…

読むエスプレッソー読書感想「ザーッと降って、からりと晴れて」(秦建日子)

サラッと読めて、でもぐっと癒される本がある。そういうページ数の少ない、厚みの薄めの本が好きだ。「アンフェア」の生みの親で知られる秦建日子さんの連作短編集「ザーッと降って、からりと晴れて」(河出文庫)は、まさにそういう、エスプレッソやぐーっ…

あの頃の気持ちに会いに行こうー読書感想「ボクたちはみんな大人になれなかった」(燃え殻)

わずか150ページあまりに、青春が凝縮されている。燃え殻さんのウェブ連載を書籍化した小説「ボクたちはみんな大人になれなかった」を読んで、浮かんできたフレーズは、ザ・ハイロウズのあの名曲の一節だった。「時間が本当にもう本当に止まればいいのにな」…

「演劇」ではなく「劇場」だった理由を思う―「劇場」

芸人であり作家の又吉直樹さんの二作目。「劇場」のタイトル通り、東京を舞台に、舞台演劇の演出家・永田と、学校に通いながら役者もする沙希を軸に物語が進む。読み始めて止まらないのとは反対で、何度も、何度も立ち止まって本を閉じてしまう一冊だった。…

骨は見えないー「骨を彩る」

淡い黄色のイチョウが舞う表紙に心ひかれた。作者・彩瀬まるさんが、住野よるさんの「よるのばけもの」の書評を週刊文春に書かれていて、なんとなく優しい人だなと感じたのも、本作「骨を彩る」を手に取るきっかけになった。表紙のように儚く、そっと手を触…

響き合う才能、人生―「蜜蜂と遠雷」

作者の恩田陸さんは雑誌AERAのインタビューで、作品を生み出すことは列車が駅に止まるようなものだと語っていた。つかの間とどまるが、すぐに次の駅へ向かっていく。直木賞に選出された「蜜蜂と遠雷」は、ターミナル駅のような、ひとつの節目の駅だと話して…

化け物の姿をした人か、人の姿をした化け物か―「よるのばけもの」

夜になると、僕は化け物になる。 ネタバレではない。書き出しである。『君の膵臓をたべたい』で泣かされた住野よるさんの作品を水平展開。最新作「よるのばけもの」を手に取った。週刊文春の書評で彩瀬まるさんが取り上げていたのも、興味を持ったきっかけ。

この言葉以外に、ない―「君の膵臓をたべたい」

君の膵臓をたべたい 作者: 住野よる 出版社/メーカー: 双葉社 発売日: 2015/06/17 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (34件) を見る 買った。読んだ。読む手が止まらなかった。読み終えて涙が止まらなかった。 圧倒的なインパクトがあるタイトルで、書…

面倒くさがった愛の行方―「四月になれば彼女は」

四月になれば彼女は 作者: 川村元気 出版社/メーカー: 文藝春秋 発売日: 2016/11/04 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (3件) を見る NHKの朝の情報番組「あさイチ」に著者の川村元気さんが出演され、本書が取り上げられているのを見て、無性に引き…

傷つきたくないのは自分なんでしょう?―「ナラタージュ」

ナラタージュ (角川文庫) 作者: 島本理生 出版社/メーカー: 角川書店 発売日: 2008/02 メディア: 文庫 購入: 3人 クリック: 29回 この商品を含むブログ (87件) を見る 作者の島本理生さんは痛みを描くことにかけてものすごく繊細だと思う。「アンダスタンド…

愛と時間の物語―「マチネの終わりに」

マチネの終わりに 作者: 平野啓一郎 出版社/メーカー: 毎日新聞出版 発売日: 2016/04/08 メディア: 単行本 この商品を含むブログ (7件) を見る 「結婚した相手は、人生最愛の人ですか?」。書店で帯を見る度に気になっていた本。又吉直樹さんが推薦している…